2009年12月21日
『別れたはずの恋人』(後編)
ゴトッ、という音に私は我に帰った。一つおいた隣のテーブルの彼が、椅子から立ち上がった音だった。
帰るのだろうか? そう思ったら、急に声をかけたい衝動に駆られた。奇跡的に出会えた私達。本当は今でも好きなの。
「ばか、何言ってんの。あいつはあんたを裏切ったんだよ。それにもう逢わない、と決めたはずでしょ?」
・・・心の声が私を押し留めた。
そして再び、私は思い出の続きに引きずり込まれて行った・・・。

・・・私があの事実を知ったのは、何がきっかけだっただろうか。
私には幼い頃からの同性の親友がいた。悩み事でも何でも、お互い包み隠さず話してきた仲だった。一番の親友だった。
当然、彼のこともその親友に真っ先に報告した。嬉しさを一緒に分かち合いたかったのだ。
そしてある時、直接二人を紹介したりもした。なぜかその時親友は顔を赤らめていたっけ。
知ったきっかけは忘れてしまったが、彼とその親友が深い付き合いをしているのを分かってしまった・・・。
出会ってから1年近く経った頃の事だ。その余りのショックのせいで、他の事は・・・他の事は全て忘れてしまった。
もちろん、最初はそんな話しなんか信じなかった。私たちの仲を妬んだ誰かが、
嫌がらせか何かでそんなデマを流したんだと思った。
ある日、嘘だとは思っても気になって、単に世間話のついでに、みたいな感じで彼に聞いてみた。
すると、あっさりとその事を認めた。彼のほうでも打ち明けるタイミングを計っていたみたいだった。
私からその話題を振られて、それであっさりと認めたのだ。
それを聞いて、私の頭はぽっかりと空白になった。何にも考えられなくなった。
そうなんだ。本当だったんだ。
だけど、だけど・・・なんで相手が私の一番の親友だったの?
正直に言うと、それを聞いて私は半狂乱になった。
「あなたも私の事を真剣に愛してくれていたんだと思っていたの!」
「あなた程、気持ちの通い合う人はいないと思っていたのよ!」
「これまでに色んな優しい言葉を一杯言ってくれたのは、あれはみんな嘘?」
「いったい私はあなたにとって何だったの? 私の存在はあなたにとってどういう存在だったの? 」
「彼女と私とを比べたら、確かに彼女の方が綺麗だし、頭もいいかもしれない」
「だけど、だけど、相性ってあるでしょう?」
「ほら、私がよく言ってたよね? 男と女には合う波長、合わない波長があるんだって」
「それだけはどんな美人だって才媛だって、自分で決める事はできないもの」
「彼女の方が私よりも波長が合ってたって言うの?」
「ううん、違う。他のどのカップルより私達はぴったりだった。彼女がどんな事をしても届かないくらい、
私達二人はぴったりだった。それだけは自信を持って言える」
「じゃあなんで、なんで彼女となんか・・・」
気づくと、透明な雫が足元に落ちていた。私の頬は濡れていた。・・そう、私は泣いていた。
涙が頬を伝って流れ落ちていることに、その時気がついた。
やっぱり私は、涙が流れるほどに彼のことが好きだった。
でもその時はもう、彼はそこに居なかった。私が涙を流していたことを知らなかった。
こらえても、こらえても、流れ落ちる涙を止めることはできなかった。でもそれを彼は知ることはなかった。
あれから3年。
どうしてこんなに胸がときめくの?
忘れたはずの恋人なのに・・・。
ふとテーブルを見ると、もうそこには誰も居なかった。

私は立ち上がって、彼の座っていた席に近づいた。
そっと彼が手を置いていたテーブルを撫でた。

音も無く私の目から一筋の雫が流れ落ちて、テーブルの上に落ちた。
=(完)=
Posted by カレン at 23:04│Comments(0)
│恋の物語
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